刹那の優越 梅田君の役目
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首相官邸の閣議が終って、閣僚が玄関口に現はれると、
『内務大臣。』
『司法大臣。』
と透き通った声で自動車を呼ぶ、それが梅田君の役目だ。もっと
も外にも用事はあるのであろうが、局長が次官となり、次官が大臣
とはなっても、その声の主はいつもいい声で、官邸の玄関前に立っ
て居る。
『十四の時に内閣の給仕になりましたが、もう今では三十五年経ちますよ。』
辛抱のいい話だ。その三十五年の目まぐるしい世の移り変り、栄枯盛衰をよそに見て、玄関子に晏如た
るには、何かしら悟りと云ったようなものを持っているのだろう。彼に聞くと、
『欲を出したって、しょうがありませんや。』
と一笑に附した。それにしても、世の中で、最も欲の皮の突っ張ったものは、政治家と商売人である。中
でも政治家と来たら、無算党に政権欲が強い。算盤に乗らぬ欲だ。その総本山見たような首相官邸に三十
五年の玄関勤めは、これは一寸出来にくい真似である。
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2016-03-11 22:04
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