英雄礼讃 大錦君
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稽古がえりの乱れ髪……しらしら明けて大川に
打ちこむ太鼓の音。わたしにはよく分らないが、い
きで、且つ勇ましいものだそうだ。
力士の、侠と美とを象徴するあのみどりの黒髪を、ぶっつりと切って捨て、横綱大錦ともあろうものが、
忽然と角界から姿を消た時には、劇的な、センセイションをおこしたものである。
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『何うもあの時は、ああするより外にし方がなったのです。恩師の墓前に詣でて、角界引退の許しを乞
うた時は、涙がひっきりなしに流れて来て、覚悟はして居たものの随分つろうございました。』
今早稲田大学に通って居る元の横綱、細川卯一郎君は、その当時のことを思い出して、流石にくらい顔を
したものだ。
『私が大阪の島之内から天王寺中学に通って居た時分は、ただもう大言壮語、父はわたしを商人にした
かったでしょうが、わたしとしては華々しい英雄的の仕事に身を投じたかったのです。で、まア、誰も行
く道ですが、わたしも軍人になろうと考えたものです。それで幼年学校の入学試験をうけましたが、脂
肪肥満で、不合格と、来ました。いやもう、その時はがっかりしたものです。尤も十六の少年が、既に二
十貫以上もあったのですからね。……』
わが小英雄は、ここでその持って生まれた体格を利用することに決めた。あの仲間で、これも多分に英雄的
素質を持って居た常陸山の門は、わが小英雄を入れるにふさわしい部屋だった。
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2016-03-16 21:53
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