日本一『笑いの王』 曾我廼家五九郎丈
スポンサーリンク
五月雨のシトシト降る晩だ、喜劇の親玉曾我廼
家五九郎君の住居を訪ねて見る、心持ち禿げた頭
をツルリと撫でピョンと手の平で額を叩いて、い
や之れはゴクロウ様ーーいざ先づこれへ、舞台そ
のままの格好だ、私が武智故平、これが五九郎君
の本体!である
軽い洒脱味のある口っぷりで、話はトントンと進んで行く、生れは阿波の徳島、それもづうっと草深い
麻植郡鴨島村、父さんの名は……十郎兵衛、ではない亀之助さん、娘お鶴のようにあんな悲劇は生まなか
ったが、彼の運命はかなり多岐であったのだ。
十四の時迄は野良仕事で精々と親の手助けをしていたが、星雲の志抑えがたく、是非東京へ出て一旗挙
げ度い、男と生れてこんな草深い田舎に埋れるのは残念だ、しかし親は故平に出られては家の生計にも困
る、之はどうしたらいいだろう。
▼
エヘヘンと咳ばらいをして、今では斯うやってますがね、案外これで親思いなんですよはははア、こうし
て幾日かは続いたが、どうしても東京へ行き度い、私は爰で決心しました、少しの間の不孝である、成功
すれば、取り返す事は出来る、『父在す間は遠く離れず』と云う孔孟の教えも私の耳には聞えませんでした。
で、或る夜、両親の寝顔をじいっと見つめ、手を合わして、どうか暫しの間御暇を下さい……私の目には
涙がこぼれてまいりました。……それから音のしないようにスウーと家を脱けだし、韋駄天走りです。ーー
2016-03-17 21:51
nice!(0)
コメント(0)
トラックバック(0)
[編集]
コメント 0
コメントの受付は締め切りました