此人此言 『石木房子さん』
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『いつか娘時代の友達が会いに来ましてね。ひどく気の毒が
ってくれましたが、何一つ昔の形の残って居ない今ですもの
……。』
その幼な友達が気の毒がる程、わがお婆さんはくよくよし
て居ない。上戸塚で、乳揉みのお婆さんと聞けば、あの世話
好きのお婆さんでしょうと、向うから聞きかえす程に名が売れている、目も達者、歯も達者、腰もまがらず、
しゃんとしたものだ
◆ ◆
『それはね、子供の時のことを思えば、これでも私の生れた家は浅草の稲荷町で、百足屋余一と云ってお
旗本衆から諸侯方まで、名の通った刀剣商です。私の生れたのが嘉永六年、相州浦賀に黒船がはいったと
江戸中が騒いで居た時でした。お供をつれた立派なお武家が、よく店へ見えたのを覚えて居ります。こん
な暮しをして居るから見ると、随分落ぶれたものでしょうが、それでも人様のお世話にならず、何うやら独
りでやって行けるのは、有り難い御代だと思って居ります。
一寸負け惜しみに聞こえるようだが、お婆さんとしては頗る真面目、乳揉と云う商売が、どれ程の収入が
あるものか、筆者その点は不明ながら、世話好きと人の耳に立つ程あって、家にはいつも苦学生がおいて
ある。
『私は人様の世話をするのが大好きで(その癖自分が世話をされるのは大嫌いで……すとお婆さんは笑っ
て居た)今までも随分若い方をお世話して来ました。』
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2016-03-20 13:15
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